咳・咳喘息
咳の原因について
咳の原因としては、①肺炎や風邪などの「感染症」と②喘息や肺気腫などの「非感染症」の2つに大きく分かれます。「非感染症」による咳の中には、喘息や肺気腫など気道(空気の通り道)や肺が原因のもの、肺がんなどの腫瘍(できもの)によるもの、服用中の薬が原因の薬剤性、その他に分類されます。
このように、一口に「咳」といっても多種多様な原因が考えられます。これらの原因を一般の方が判断する事は非常に難しいため、咳が長引く場合には医師(特に呼吸器科専門医)による診察を受けられることをお勧めいたします。
咳喘息とは
- 非感染性の咳で最も頻度が高い
- 喘息の一種だが、咳のみが主な症状である
- 無治療では30~40%の方が気管支喘息に移行する
- 吸入ステロイド薬や気管支拡張薬により治療する
咳の原因として、「感染症」と「非感染症」の2つがある事を上述しましたが、このうち「非感染症」の咳の原因として最も頻度が高いものが「咳喘息」と言われています。
「咳喘息」とは咳のみが主な症状で、喘鳴(ぜーぜー、ひゅーひゅー)や息苦しさを伴わない喘息の一種とされています。適切な治療を行わないと数年以内に30~40%の方が喘息に移行すると報告されており、注意が必要です(1)。また、一般的な咳止め薬の効果は乏しく、後述する吸入ステロイド薬や気管支拡張薬による治療を行う必要があります。
咳喘息の症状について
夜間(就寝時や深夜)や早朝に悪化する咳を訴えられる方が多いですが、昼間のみに咳が出る方もおられます。痰は出ないことが多いとされています。
咳喘息を発症される方はお子様では男の子に、成人では女性に多い傾向があります。
咳喘息を疑うとき
- 咳だけが長く続いている
- 喘鳴(ぜーぜー、ひゅーひゅー)や息苦しさがない
- 夜間・就寝中や朝方に咳がでる
- 気温や季節の変化、タバコの煙、会話、飲酒などが原因で咳が出る
- 新型コロナ、インフルエンザ、風邪などにより悪化する咳
咳喘息の原因ときっかけ
- 感染症(風邪、インフルエンザ、新型コロナなど)
- 天候・気温・湿度の変化(寒さ、雨など)
- 花粉、黄砂、PM2.5、ダニ、ハウスダスト、ペット
- 煙(タバコ、線香、花火など)
- におい(香水、柔軟剤、漂白剤など)
- ストレス、過労
- 運動
- 飲酒
咳喘息は喘息の一種であり、気道に炎症(肌荒れのような状態)が起こることで発症します。
そのため、治療は、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを用いて気道の炎症を抑えつつ、症状をコントロールしていくことが重要です。
咳喘息の診断と検査
胸部レントゲン検査、呼吸機能検査、呼気一酸化窒素測定検査や採血検査などを組み合わせて診断します。気道の炎症には白血球の一種(好酸球といいます)が関わっていると考えられており、上記検査を組み合わせて気道の炎症を評価します。
咳喘息の治療
咳喘息は喘息同様に気道に炎症が起こることで発症します。そのため、基本的には喘息と同様の治療を行う必要があります。
吸入ステロイド薬
咳喘息の治療で最も重要な薬です。ステロイドという炎症をおさえる薬を吸入することで、気道の炎症をコントロールします。
喘息治療に用いる吸入ステロイド薬は主に気道に作用し、全身への影響は少ないとされていますが、吸入後に「うがい」をすることで口の中や喉に付着したステロイドを取り除き、カンジダというカビの発生を予防することが必要です。
気管支拡張薬
気道の筋肉に働きかけて、気道を広げる作用をもった薬です。作用の違いにより、β2刺激薬と抗コリン薬という2種類の薬があります。抗コリン薬は閉塞性隅角緑内障、前立腺肥大症のある方にはそれらを悪化させる可能性があり、原則使用しない事とされています。
抗アレルギー薬
アレルギー性鼻炎などアレルギー体質のある方には、抗アレルギー薬の内服薬を追加する事があります。
体調管理、生活習慣や室内環境の改善
上記の薬による治療を適切に行っていたとしても、体調・生活習慣・室内環境によっては咳喘息が悪化してしまう事があります。悪化のきっかけとなるような以下のことに気を付けることも非常に大切です。
- こまめな手洗い、うがいを行い感染症(風邪やインフルエンザなど)の予防に努める
- 禁煙、受動喫煙を避ける ※当院では禁煙外来を行っており、禁煙をサポート致します
- ダニ、かびなど原因となるアレルギー物質を除去するため、こまめな掃除を行う
- 花粉の飛散が強い時期には、帰宅後なるべくすぐにシャワーを浴び、部屋着に着替える
- 過労やストレスをため込まないよう、できるだけ睡眠時間を確保し規則正しい生活を心がける
まとめ
これまでの研究結果から、咳喘息を吸入ステロイド薬で適切に治療することで、喘息への移行率が下がることが分かっています(1)。咳喘息が喘息へ移行してしまうと、咳だけでなく息が苦しくなり、発作を起こして動けなくなってしまうこともあります。最悪の場合、大きな発作を起こして命を落としてしまうことも無いとは言い切れませんので、咳喘息の段階で適切な治療を行い、喘息への移行を防止する事は非常に大切です。
また、咳喘息を再発した方や喘息へ移行する方では、花粉、ダニ、ほこりなどのアレルギー物質への関与が強いことが知られています(2)。そのため、症状の原因となっているアレルギー物質を調べ、それらを回避する取り組みも大切になってきます。特に、ダニやスギ花粉によるアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎をお持ちの方には、舌下免疫療法を行う事で鼻炎・結膜炎症状や咳喘息・喘息の症状をコントロールしやすくなるため、世界各地のガイドラインでその使用が勧められています。
- 咳がつづいて困っている
- 自分や家族の咳の原因を知りたい
- アレルギー持ちなので、舌下免疫療法について知りたい
など、
(1)Thorax 2003; 58: 14-8.
(2)Clin Exp Allergy 2007; 37: 1833-9