睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。具体的には、10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」や、呼吸が浅くなる「低呼吸」が睡眠中に1時間あたり5回以上あると診断されます。
睡眠中に何度も「無呼吸」や「低呼吸」が起きると睡眠の質が悪くなり、日中の眠気や怠さを引き起こすため、自動車事故や仕事の効率低下に繋がる可能性があります。また、睡眠中に血液中の酸素濃度が低下するため、あらゆる臓器に負担がかかり、心筋梗塞、脳卒中、高血圧などの病気の発生を増加させ、最悪の場合突然死を引き起こす事もあります。
睡眠時無呼吸症候群は治療により劇的に改善する事が多いため、適切な診断と治療が重要です。
睡眠時無呼吸症候群の種類
睡眠時無呼吸症候群は、空気の通り道である上気道が狭くなること(図1)によって生じる閉塞性睡眠時無呼吸症候群と、呼吸を調整する脳の働きが低下するせいで生じる中枢性睡眠時無呼吸症候群の2種類に分類されます。
大部分は閉塞性の無呼吸症候群であり、ここでは閉塞性睡眠時無呼吸症候群について解説します。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状
まず、ご自身で簡単にできるセルフチェックとしては、以下の「STOP-Bang 質問表」があります。下記の項目のうち、3つ以上当てはまれば睡眠時無呼吸症候群の可能性が非常に高くなる (70%以上)とされています。
STOP-Bang 質問票
- 大きないびき
- 日中の眠気や疲労
- 睡眠中の無呼吸を指摘されたことがある
- 高血圧である
- 肥満である
- 50歳以上である
- 男性である
- 首まわりが40cm以上ある
その他、以下のような症状を認める事もあります。
- 朝起きた時の頭痛やだるさ
- 夜中によく目が覚め、熟睡感が無い
- 夜中に何度もトイレに行く(夜間の頻尿)
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因
上述の通り、上気道が閉塞することにより睡眠時無呼吸症候群は発症します。原因としていくつかありますが、最も重要なものは肥満です。肥満により、喉のまわりの脂肪が増えることで、上気道が狭くなりやすくなります。その他、顎の形(小さな顎)や喉の奥の形(扁桃肥大など)が原因で発症することもあります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有病率
男性 | 女性 | |
30~40歳 | 10% | 5% |
50歳以上 | 10~20% | 10% |
70歳以上 | 20%以上 | 10%以上 |
(日本呼吸器学会 睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020より)
30歳代でも男性は10人に1人、女性は20人に1人が睡眠時無呼吸症候群と報告されています。
また、70歳以上になると男性は5人に1人以上、女性は10人に1人以上と、加齢にともない有病率が上昇することが分かっています。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の問題点
病気の本態は睡眠中の無呼吸ですが、1988年に発表された論文では「治療を行わなかった睡眠時無呼吸症候群患者の3人に1人が8年以内に死亡した」と報告され、世界中に衝撃が走りました(3)。
その後、様々な研究により病気の解明が進み、現在は特に1)日中の活動、2)他臓器の合併症、の2点が問題視されています。いずれも「大事故」や「突然死」につながるため、睡眠時無呼吸症候群ではそれぞれの要素を考慮した対応が必要となります。
1)日中の活動
― 自動車事故の増加
日中の眠気や集中力低下のため、睡眠時無呼吸症候群の方は健常者と比較して2~3倍自動車事故を起こすリスクが上がります(1)。後述するCPAP療法を行う事で自動車事故の発生率が下がる事が分かっています。
― 認知機能や精神状態の悪化
睡眠中の低酸素により、記憶力や注意力が低下する事がわかっています(2)。また、精神的にも不安定になりやすく、イライラやうつ症状などが出やすくなりますが、CPAP療法により精神状態が改善すると報告されています。
2)他臓器の合併症
― 心筋梗塞、不整脈、脳卒中、高血圧症
睡眠中の心拍数増加や血圧が上昇することで、心筋梗塞、不整脈などの心疾患や高血圧症のリスクが上昇します。睡眠時無呼吸症候群患者さまの半数は高血圧症を合併しますが、こちらもCPAP療法により血圧を下げ、心疾患や脳卒中の発症リスクを低下させる事ができます。
― 糖尿病
これまでの研究から睡眠時無呼吸症候群は糖尿病発症の独立したリスクである事がわかっています(4)。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断
症状を問診で確認し診察を行った上で、以下の検査を行い診断します。
簡易無呼吸検査
睡眠中の呼吸状態と血液中の酸素濃度を測定します。
睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査として行う事が多いです。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)
簡易呼吸検査の測定項目に加えて、脳波、眼球運動、筋電図などを測定します。
上述の簡易検査で睡眠時無呼吸症候群が疑われた際に行う精密検査です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療
上述した1時間あたりの無呼吸・低呼吸の合計回数を「AHI」と呼びます。
このAHIの値によって下記の図のように治療法が異なってきます(図2)。
CPAP(シーパップ)療法
CPAP療法は世界中のガイドラインで第一選択となっている治療法です。
CPAP療法を行う事で、上述の通り心疾患や脳疾患の発症リスクを低下させる事ができます。また、日中の眠気を低下させるため、自動車事故の発生率が低下します。さらに睡眠の質が向上することで、日中の精神状態が安定し日常生活の質を向上させる事ができます。
日本では以下の場合に保険適応となります。
- 簡易無呼吸検査:AHI ≧ 40回
- PSG検査 (精密検査):AHI ≧ 20回
具体的なCPAP療法ですが、図のように「鼻タイプ」または「口鼻タイプ」のマスクを装着し、機器を通してマスクから空気を送り込み、気道を開通させることで気道閉塞を防ぎます(図3)。
CPAP療法は、一晩あたり4時間以上行うことが重要です。CPAP療法の適応とならない患者さまに関しては、マウスピースや体位療法等の治療を行います。
その他、以下の通り生活習慣を改める事も大切です。
―減量
肥満のある方では、減量する事で睡眠時無呼吸症候群が改善すると報告されており、適切な体重管理が望ましいです。
―睡眠前の飲酒の中止
晩酌により睡眠時無呼吸症候群が悪化するため、睡眠前には飲酒しない事が望ましいです。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は放置すると重大な事故や病気の発症につながりますが、治療により劇的に改善し、将来リスクを軽減することができます。
- いびきを指摘されている
- 日中の眠気が強い
- 熟睡感が無い
など、気になる症状がありましたら、お気軽に長浜市 みよし呼吸器クリニックへご相談ください。
(1)Am J Respir Crit Care Med. 2007;176(10):954.
(2)Sleep. 2012;35(4):461.
(3)Chest. 1988 Dec;94(6):1200-4.
(4)Am J Respir Crit Care Med. 2014;190:218-225.